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コラム - 第6回:スピードの追求

コラム第6回:スピードの追求

2004.10.26
乾正知

金型を取り巻く環境

 プラスチックやダイキャスト部品、板金部品の生産に用いられる『金型』は、機械製造の要ともいうべき製品です。代表的な機械製品である自動車の場合、その主要なパーツのほとんどが、ダイキャスト金型(エンジン部品)、モールド金型(プラスチック部品)、プレス金型(外装部品)を用いて作られています。世界に誇る日本製品の高い品質は、国産の精密な金型が支えていると言っても過言ではないでしょう。

 しかしながらこの金型製造も、東アジア諸国の技術向上により、次第にそのシェアを減じるようになってきています。さらに、製造活動のグローバル化は、今後ますます加速すると予想されます。人件費に10倍以上の開きがある現状で、労働集約的な作業において、日本の製造業が今後優位に立つとは到底思えません。日本の金型製造業がその優位性を維持するためには、これまでの労働集約的作業を、知識集約的なプロセスに変革する必要があると考えられます。すなわち、金型の設計や製造に関する知識の質と量、そしてその運用方法が「他国との差」を生み、日本を優位に導くような構図への転換です。

知識の習得と維持

 熟練技術者は、過去の豊富な経験に基づいて、製品の形状パターンや精度要求などから、適切な型形状やその加工手法を決定しています。技術者の高齢化と若者の製造業離れが進む中、経験を積み技能を向上させていくこれまでの方法では、製造知識の習得と維持が困難になりつつあります。この問題を解決するためには、経験量や作業への習熟を必ずしも前提としない、製造知識の新しい獲得手法と運用手法を実現する必要があります。そのための一つの方法として、製造知識をルールの形で整理し、ソフトウェア化する手法が提案されています。この考え方に基づいて、既に多くの企業や機関が研究を進めていますが、このような知識工学的なアプローチに対しては、表層的な知識しか表現できない、製造技術の進歩に対応できない、などの問題点も指摘されているのが現状です。

金型製造と情報処理

 金型製造は一般に以下の手順で進行します。

(1) 金型モデルの作成:製品のCADモデルに基づいて金型のモデルを作成する。その際には、設計要求と部品の製造性を勘案して、型割や抜き勾配の付与、隅や角の丸め処理などをおこなう。
(2) 工程設計:金型モデルに基づいて、無駄や無理の生じない加工手順や切削方法、加工に使用する工具・ホルダを決定する。
(3) 数値制御命令の生成:金型モデルと工程設計の結果に基づいて、工具の移動経路などの数値制御(NC)命令を計算する.また加工シミュレーションにより命令の検証をおこなう。
(4) 実加工:生成された命令に基づいて工作機械を動かし、金型製作をおこなう。

 現在の金型製造では、実加工よりも、金型モデルの作成や工程設計、加工命令の生成、加工シミュレーションといった「情報処理」に、多大な時間が費やされています。複雑なプレス金型の作成では、モデルの作成に数日、工程設計に1日、そしてNC命令の生成と検証に数十時間を要していますが、これは実加工時間の数倍に及びます。これらの作業を高速化できれば、個々の金型を製造するためのリードタイムを大幅に低減できますから、高品質な金型の、より迅速かつ低価格の供給が達成されることになると思われます。

 さらに副次的な効果として、このような高速な処理環境では、計算機上で仮想的な金型製造を繰り返し体験できるので、技術者の技能を短時間に向上させ、結果的に金型製造を長年の経験に依存しないものへ変革していくことになると考えられます。

100倍速く!

 このような考え方に基づいて、金型製造において利用される各種CAM(Computer-Aided Manufacturing:コンピュータによる製造支援)ソフトウェアを超高速化する研究を、1996年から開始しました。この研究では、現在出回っているCAMソフトウェアと比較して、少なくとも一桁(10倍)、可能であれば二桁(100倍)高速な技術の実現を目指しています。既存のアルゴリズムの部分改良では、このような桁違いな性能向上は非常に困難です。そこで私たちは、CAMアルゴリズムのハードウェア化という、全く新しい技術を試みることにしました。具体的には、近年高速化と低価格が著しい3次元グラフィックス表示用ハードウェアを利用することで、NC命令の生成などの複雑な処理を高速化します。様々な計算実験を行ったところ、CAMにおける主要な計算を容易に数十倍高速化できることが確認されました。

 この技術の核となる部分は、科学技術振興事業団を通して特許出願済みで、広くご利用いただける環境は整いました。本当に皆様のお役に立てるところまでもう一歩のところまで来ています。金型をはじめとする製造業の皆様が日常的にお使いになる便利な道具として提供することができ、さらに、個別のご要望にはサービス事業のコアメニューとしてご提供できることを目指して事業化の検討を進めています。